15年前のアグリッチ通信1

15年前、就農当初に書いていたアグリッチ通信。当時の通信の一部を公開。

「ある中学生が教えてくれた大切なこと」
私は、農業以外に、引きこもりや不登校生など特殊な事情を持った子供の学習面や精神面でのサポートをする活動を行っています。そして、先月、障害を背負った中学生の男の子が志望高校に合格しました。今回は、出会って一年半の間の彼とのお話です。
障害を持つまで、彼はスポーツが大好きな子だったそうです。しかし、ある日突然、障害を持ったことで、大好きだった運動は出来なくなり、脳にもダメージを受けて、別人のようになってしまいました。当時の事を親御さんから聞くと、「生きていればそれでいい」と回復を願ったそうです。私と出会った時は、完全に自信を失い、今後の事なんて考えることすら嫌な状態でした。実際、学習面でも、掛け算や割り算すら出来なくなっていました。ある時、彼の道徳の教科書を見せてもらっていると、その中に「あなたが親になった時、子供にどのような言葉をかけてあげたいですか?」という質問がありました。彼の答えの欄には「生きていればそれでいい」とだけ書いてありました。彼には、一日一日を生きることで精一杯だったのかもしれません。僕はそれを見たときに思わず涙があふれてしまいました。そのうちに、自分が何も出来ない人間だと思っているから、本当の望みや気持ちを言わないのかなと思いました。そして、出会ってから3ヶ月後に、彼の本音を聞くことが出来ました。彼は、「無理かもしれないけど出来ることなら高校へ行ってみたい」と打ち明けてくれました。それから、私の下手な指導と中学校の先生の多大な支援を受けて、彼は勉強を始めました。あれから、彼の気持ちが落ち込んだり、理解できないことがあったり、覚えていたことを突然忘れたりと、山あり谷ありの一年ちょっとでした。しかし、今では、作文を書いたり、掛け算が出来なかった彼が方程式や因数分解をマスターしたり、理科についても基礎力がつきました。たった一年ちょっとでこれ程までに人間は変わることが出来るのだと教えられました。そしてついに・・・念願の合格!電話で合格の知らせを聞いた時には、カラダがジーンとなって、まさに感無量のひと時でした。出会った当初、私は彼に高校進学は無理だと思っていました。しかし、彼が希望を持ったことで状況は一変しました。彼自身の変化だけでなく、驚くほど周囲の応援も拡大していったのです。彼が、夢の実現をまさに引き寄せたのだと思います。いろんな悩みや障害を持ちながらも、それを言い訳にせず、希望と目標をしっかり持つことの大切さ、そんな当たり前だけど、おろそかにしがちなことを彼に教えられました。そして、私にとって一生忘れない楽しい思い出が出来ました。
これから、彼がどんな人生を歩んでくれるのか楽しみです。

2023年07月04日